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委託研究 |
この研究はBiochem Biophys Commun. 2015 Sep 25; 465 (3)433-6 に掲載された英文の論文を、山根先生に日本語に訳していただきました。 |
アロニアジュースに含まれるジペプチジルペプチダーゼIVインヒビターの同定 |
北海道大学大学院薬学研究院特任講師 |
博士(医学)山根拓也 |
1.はじめに
アロニア果実には期待される様々な健康効果が報告されている。例えば抗酸化作用、肝臓や血管の保護、抗糖尿病効果、大腸ガン細胞分化の阻害などである[1]。さらにアロニアジュースには糖尿病のヒト[2]やラット[3]において血糖値の改善効果があることが示されている。しかし、そのメカニズムは明らかとなっていない。 |
2.実験材料と方法
2-1. 実験材料
2-2. プロテアーゼ活性測定 AMCの蛍光強度を測定することにより酵素活性を決定した(励起波長380nm、蛍光波長440nm)。反応系は10mMの基質を10 μl、0.5 M Tris-HCl緩衝液(pH 9.0)を100 μl、酵素溶液を5 μl加え、ミリQ水で1 mlとし、37℃で30分間反応させた。2 mlの0.2 M酢酸を加え、反応を停止させた。
2-3. DPP IVインヒビターの同定 全ての分画ステップは特に記載がない限り、室温で行った。各ステップでDPP IV阻害活性はGly-Pro-MCAを基質として50 mM Tris-HCl緩衝液(pH 9.0)中で測定した。
Step 1 Supel Sphere Carbon/NH2 SPE chromatography アロニアジュースを5 ml/hourの流速で予め50 mM リン酸緩衝液(pH 7.0)で平衡化したSupel Sphere Carbon/NH2 SPE Cartridge(カラム体積:6 ml)にかけた。カラムに反応しない分画を集めた後、エタノールで洗浄し、2.0 M NaClで溶出した。DPP IV活性のある画分を次のステップに用いた。
Step 2 逆相クロマトグラフィー Step 1で得られた溶液をInertSustain C18カラム(4.6×150 mm)にかけ、流速1.0 ml/minでアセトニトリルを0から100 %までグラジェントをかけることで溶出した。各ピークをエバポレーターにかけ、濃縮乾固後、DPP IV阻害活性を測定した。活性の高い分画を次のステップに用いた。
Step 3 LC-MS/MS分析
2-4. 統計解析 データは平均値±SEで表した。統計解析はt-検定を用い、多サンプルの比較にはチューキークレーマー検定を用いた。 |
3.結果 3-1. アロニアジュースにおけるDPP IV阻害活性 アロニアジュースにおけるDPP IV阻害活性を試験するために、DPP IV活性をGly-Pro-MCAを基質として測定した。その結果、Fig. 1Aに示すように、DPP IV阻害活性はアロニアジュースにおいて検出され、コントロールと比較して27%阻害された Fig.1. アロニアジュースによるDPP IVの阻害 A. アロニアジュースによるDPP IV阻害活性を合成基質Gly-Pro-MCAを用いて測定した。n=4 ***p<0.001 B. Spelco column chromatographyから得られた分画におけるDPP IV阻害活性を合成基質Gly-Pro-MCAを用いて測定した。n=4 ***p<0.001 有意でない: n.s.
3-2. アロニアジュースからのDPP IVインヒビターの抽出
Fig. 2. DPP IV阻害画分の分離 A. RP-HPLCを用いたDPP IVインヒビターの分離. 4つの画分が得られた。 B. DPP IV阻害活性は 画分2に存在し、その溶液は赤色であった。n=4 ***p<0.001 有意でない: n.s.
3-3.アロニアジュースにおけるDPP IVインヒビターの同定
Fig. 3. DPP IVインヒビターの同定 B. メインピークのMS/MSスペクトル フラグメントピークにおいてシアニジン 3-グルコシドとシアニジンが検出されたため、メインピークはシアニジン 3,5-ジグルコシドと同定された。
3-4.シアニジン 3,5-ジグルコシドのIC50測定
Fig. 4. シアニジン、シアニジン3-グルコシド、シアニジン 3,5-ジグルコシドによるDPP IV阻害 DPP IV活性はシアニジン 3,5-ジグルコシドによって約25%阻害された。n=4 **p<0.01. |
4.考察 アロニアジュースは血糖値を改善する効果を有することが既に示されているにもかかわらず、そのメカニズムは不明のままである。GLP-1とGIPはDPP IVによって迅速に不活化される[14]。我々はアロニアジュースがDPP IV阻害活性を有することを見出した。DPP IVインヒビターは食品や食品に含まれるタンパク質分解物中で既に見出されている。また、DPP IVはpterocarpus marsupium Roxb、Agonia cretica LとHedera nepalensis K. Kochによって阻害される[15, 16]。本研究では新しいDPP IVインヒビターとしてシアニジン3,5-ジグルコシドを同定した。アロニアジュース分画中のシアニジン3,5-ジグルコシドはDPP IVインヒビターとして働く主な成分であることを見出した。シアニジン、シアニジン 3-グルコシド、マルビジン、ルテオリン、アピゲニン、ケルセチン、ケンペロール、へスペレチン、ナリンゲニン、エリオシトリン、ゲニステイン、レスベラトロール、没食子酸、カフェイン酸はベリーやシトラスフルーツに含まれるDPP IVインヒビターとして報告されている[17]。DPP IVインヒビターが含まれる食品タンパク質加水分解物としてはアトランティックサーモンの皮、tuna cooking juice、日本の米ぬか、ゴーダチーズ、ミルクプロテインの報告がある[18]。以前の研究でアロニアジュースはアントシアニン配糖体としてシアニジン 3-ガラクトシド、シアニジン 3-アラビノシド、シアニジン 3-グルコシド、シアニジン 3-キシロシドを含有することが示された[19-24]。さらに、シアニジンとシアニジン 3-グルコシドはDPP IVインヒビターであることが報告されている[17]。我々はシアニジン3,5-ジグルコシドがシアニジンやシアニジン 3-グルコシドよりも強くDPP IVを阻害することを見出した。我々の結果と以前の研究結果はシアニジン3,5-ジグルコシドがアロニアジュースに存在する新しいDPP IVインヒビターであることを示唆している。 |
文献 [1] E.S. Kulling, M.H. Rawel, Chokeberry (Aronia melanocarpa) –A Review on the Characteristic Components and Potential Health Effects, Planta Med. 74 (2008) 1625-1634.
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