食物繊維を豊富に生成する
ヴィーリの発酵のために

ホームメイド・ヴィーリの
発酵温度について

ヴィーリは強い粘りを特徴とするスカンジナビア地方の伝統的発酵乳です。ヴィーリの強い粘りはヴィーリを発酵する乳酸菌ラクトコッカス・クレモリス(以下クレモリス菌と記載)のつくる食物繊維(菌体外多糖:Exopolysaccharide以下EPSと記載)によります。

クレモリス菌はなぜEPSをつくるのだろうか?粘質多糖類で細胞を覆うことによって、過酷なスカンジナビア地方の環境に耐えて生命を維持してきたためであると考えられます。

昨年、北欧生まれのヴィーリが初めて日本の夏を経験しましたが、数名のお客様から夏になって粘らなくなったというご指摘がありました。

ホームメイド・ヴィーリの発売に当たっては何回も発酵テストを行って、室温で発酵できることを確認していましたが、室温を冬は暖房をした部屋、夏は冷房をした部屋の温度と想定していました。これはホームメイド・ケフィアの発酵も同じです。したがって冬季暖房のない部屋で発酵させるときはケフィアサポーターの使用をお勧めしています。ケフィアはこれで四季を通じて一様に発酵できますので、ヴィーリも同様に考えていましたが、夏季に冷房のない部屋でヴィーリを発酵させると、カードが出来る(牛乳が固まる)が粘らない(EPSを作らない)ということは想定外でした。

それでヴィーリの発酵温度と粘りの強さの関係を確認するために、発酵したヴィーリをピペットで吸い上げ、9g(滴定酸度のサンプリング量)が流下する時間(秒)を測定しました。粘りが強いほど流下時間が長くなります。

 

牛乳1リットルにホームメイド・ヴィーリ1パックを加え、22.5℃、30℃、38℃で24時間発酵させたヴィーリを検体としました。第1図に見ると、発酵温度が低いほど粘りが強く(流下時間が長く)、発酵温度が高くなるにつれ粘りが少なくなりますが、30℃までは粘りがあります。しかし38℃で発酵するとほとんど粘りが無くなることがわかりました。

同じ検体を用いてEPSの定量を行いました。

 

第2図に牛乳1リットルで発酵させたヴィーリのEPS生成量を示します。EPSの生成量は、22.5℃で発酵すると1リットル当たり84 mg、30℃で発酵させると64 mgでした。30℃で発酵すると22.5℃で発酵させた場合の約80%のEPSを生成しています。ところが38℃で発酵させるとEPSの生成量は24 mgになりました。22.5℃で発酵させた場合に比べEPSの生成量は約30%に下がります。この結果からヴィーリの発酵は30℃以下の温度で発酵させなければならないことがわかりました。

 

第2図に見る発酵温度によるEPSの生成量の低下に比べ、第1図の粘度の低下傾向が大きいように見えますが、それはEPSの縺れた繊維状の分子構造(第3図)によるのでないか、つまりEPSがある濃度以上に蓄積すると極端に粘度が高くなるのでないかと考えています。

 

第4図を見ると、乳酸生成量はEPS生成量の様に発酵温度が高くなると低下するようなことはなく、ほぼ同じ量の乳酸を生成しています。

全ての生物の生命活動は酵素反応によるものですが、乳酸菌による乳酸発酵も乳糖をグルコースとガラクトースに分解する酵素、さらにグルコースを乳酸に酸化する酵素の働きによるものです。同様に乳糖を分解して生じたガラクトースを繊維状に繋げてEPSを生成する反応も酵素の働きによるものです。

それぞれの酵素反応には反応しやすい温度すなわち至適温度があります。クレモリス菌の乳酸発酵の至適温度は20~30℃ですが、第2図を見るとEPSを生成する酵素の至適温度は乳酸発酵のそれに比べて低いことがわかります。前述のとおり過酷なスカンジナビア地方の環境に耐えて生命を維持するためのEPSを生成する酵素は低温で働くように環境に順応してきたのであろう。従って、粘りの強いヴィーリを発酵させるためには、低い温度に置く必要があります。

従来、発酵乳の発酵器はケフィアサポーターやヨーグルティアYM-1200などがそうであるように、寒い季節に発酵しやすくする器具として開発してきました。しかしヴィーリは暑い季節に発酵しやすいように温度を下げる発酵器を開発しなければなりません。

種々検討した結果、-9℃から60℃まで自由に温度設定が出来るベルソス冷温庫がこの目的に適っていることがわかりました。

食物繊維が豊富な、粘りの強いヴィーリの発酵方法

●ヴィーリの発酵適温は20~30℃ですが、低い温度を好みます。

●室温が30℃を超える夏季には、ベルソス冷温庫を22℃に設定して発酵させてください。

●室温が20℃以下に下がる冬季は、ケフィアサポーターまたはヨーグルティアYM-1200を使用してください。