ブログ

動画

 

セキュリティポリシー

お電話でのお問合せ

0120-417-918

ヨイナケヒヤ

更新2021.01.27

 

HOME文献調査腸内細菌

文献調査(発酵乳、腸内細菌の科学:研究の最前線)

認知機能障害における Lactiplantibacillus plantarum AM2 の神経保護作用

およびプロバイオティクスとしての可能性

Walid A Lotfy et al.,

Sci Rep. 2025 Jun 20;15:20186.

要約

 本研究は、アセチルコリン産生能を有するプロバイオティクス菌株を単離・同定し、D-ガラクトース誘発ラットモデルを用いてその抗アルツハイマー病作用の可能性を評価することを目的とした。MRS寒天培地を用いて9株の乳酸菌(Lactobacillus属)を単離・精製したところ、そのうち6株にアセチルコリン(ACh)産生能が認められた。中でも Lactiplantibacillussp. AM2株は最も高いアセチルコリン産生量(78.4 pg/mL)を示し、形態学的・生化学的解析、16S rRNA塩基配列解析、およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)により、Lactiplantibacillus plantarumと同定された。L. plantarum AM2株のプロバイオティクスとしての特性評価(in vitro)には、酸および胆汁酸塩に対する耐性試験、模擬消化管内での生存率試験、抗菌活性の評価、および抗生物質感受性試験が含まれた。また、D-ガラクトース投与により認知機能障害を誘発したラットモデルを用い、認知機能、血清グルコース濃度、酸化ストレスマーカー、および抗酸化能を評価する行動試験および生化学的試験を実施した。さらに、海馬の組織病理学的評価も行った。L. plantarum AM2株は酸および胆汁酸塩に対して高い耐性を示し、模擬胃液および模擬膵液への曝露後も80%以上の生存率を維持した。本菌株はヘキサデカン、オクタン、キシレンに対して疎水性を示したほか、病原性細菌に対する顕著な抗菌活性を示し、複数の抗生物質に対して感受性を示した。認知機能障害に関する試験では、L. plantarum AM2株を投与されたラットにおいてモリス水迷路試験での潜時(到達時間)の短縮が認められ、認知機能の改善が示唆された。生化学的解析の結果、血清グルコース濃度の改善、酸化ストレスマーカーの低下、ならびにグルタチオン量および総抗酸化能の増大が確認された。組織病理学的解析では、海馬の損傷の軽減と正常な細胞構造の回復が認められた。これらの知見は、L. plantarum AM2株が、神経保護作用と優れたアセチルコリン産生能を併せ持つ有望なプロバイオティクス候補であることを示している。今後、治療への応用可能性を探るためのさらなる研究が期待される。

 
目次(クリックして記事にアクセスできます)
1.はじめに
2.材料および方法
 2.1.Lactiplantibacillus属菌の分離源
 2.2.指標となる病原微生物
 2.3.培地および化学試薬
 2.4.Lactiplantibacillus属菌の分離および純化
 2.5.種菌の調製
 2.6.アセチルコリン産生能を有する有望なLactiplantibacillus属菌株のスクリーニングおよび選抜
 2.7.アセチルコリンの定量
 2.8.細菌分離株の同定
 2.9.16S rRNA配列を用いた分子生物学的同定
 2.10.MALDI-TOF MSプロテオミクスに基づく同定
 2.11.Lactiplantibacillus属菌のプロバイオティクス特性の評価
  2.11.1.耐酸性
  2.11.2.胆汁耐性
  2.11.3.模擬消化管内での耐性
  2.11.4.ステンレス鋼チップへの付着
  2.11.5.細胞表面疎水性
  2.11.6.病原体に対する拮抗活性
  2.11.7.抗生物質感受性
 2.12.アルツハイマー病を誘発したウィスター系アルビノラットにおける認知機能の評価
  2.12.1.動物実験用プロバイオティクス投与液の調製
  2.12.2.動物および実験計画
  2.12.3.行動試験
  2.12.4.血液および脳の採取
  2.12.5..組織の調製
 2.13.生化学的パラメータの分析
  2.13.1血清グルコース濃度の測定
  2.13.2.血清中終末糖化産物(AGEs)濃度の測定
  2.13.3.海馬組織における脂質過酸化の最終産物(マロンジアルデヒド;MDA)濃度の測定
  2.13.4.海馬組織における還元型グルタチオン(GSH)量の測定
  2.13.5.海馬組織における総抗酸化能(TAC)の測定
  2.13.6.海馬アセチルコリン濃度の測定
  2.13.7海馬組織におけるアセチルコリンエステラーゼ(AChE; EC 3.1.1.7)活性の測定
  2.13.8.ラット海馬におけるNF-κBの測定
  2.13.9.海馬組織における腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)の測定
  2.13.10.海馬組織におけるインターロイキン-6(IL-6)の測定
  2.13.11.海馬組織におけるインターロイキン-1β(IL-1β)の測定
  2.13.12.海馬におけるアミロイドベータペプチド1–42(Aβ1–42)の定量
  2.13.13.海馬におけるカスパーゼ-3(CASP-3)濃度の測定
  2.13.14.組織病理学的検討
 2.14.統計解析
3.結果
 3.1.アセチルコリン産生菌 Lactiplantibacillus属のスクリーニング
 3.2.Lactiplantibacillus sp. AM2の同定
  3.2.1.Lactiplantibacillus sp. AM2の形態学的特性
  3.2.2.分離株AM2の生化学的特性解析
  3.2.3.分子生物学的同定
  3.2.4.マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)による同定
 3.3.Lactiplantibacillus plantarum AM2のプロバイオティクス特性の評価
  3.3.1.耐酸性
  3.3.2.胆汁耐性
  3.3.3.人工胃液および人工膵液を模倣した条件下における Lactiplantibacillus plantarum AM2の生存性
  3.3.4.ステンレス鋼チップへの Lactiplantibacillus plantarum AM2 の付着
  3.3.5.Lactiplantibacillus plantarum AM2の細胞表面疎水性
  3.3.6.Lactiplantibacillus plantarum AM2の抗菌活性
  3.3.7.Lactiplantibacillus plantarum AM2の抗菌薬感受性
  3.3.8.モリス水迷路試験におけるラットの潜時に対するLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用投与の影響
 3.4.生化学的分析
   3.4.1.ラットの血清グルコースおよび終末糖化産物濃度に対するLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用投与の影響
  3.4.2.ラットにおけるLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用が酸化ストレスマーカーと総抗酸化能に及ぼす影響
  3.4.3.海馬におけるアセチルコリン量およびアセチルコリンエステラーゼ活性に対するLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用投与の影響
  3.4.4.ラット海馬における炎症マーカー、アミロイドβ(Aβ1–42)、およびカスパーゼ-3(CASP-3)に対するLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用投与の影響
  3.4.5.ラット海馬(歯状回)の組織病理学的構造に対する Lactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用投与の影響
4.考察
5.結論

本文

1.はじめに
 健康な腸内細菌叢を維持することは、免疫系や認知・情動のバランスを支える上で極めて重要です。腸内細菌叢は数多くの生理活性代謝産物を産生し、それによって腸内細菌叢と脳との間の情報伝達に影響を及ぼすからです(1)。無菌マウスを用いた研究により、腸内細菌の存在が免疫系、内分泌系、および神経系の発達に影響を与え得ることが明らかになっています(2)。「腸内細菌叢-腸-脳軸(MGBA)」は、神経、免疫、内分泌、および代謝の経路を介して腸内細菌と脳を結びつける双方向性の情報伝達系です(3)。腸と脳は物理的には離れた器官ですが、腸内細菌叢が中枢神経系(CNS)と情報をやり取りするためのメカニズムがいくつか特定されています(4)。これらには、神経活性物質、代謝産物、ホルモンの産生を介した、免疫系、迷走神経、腸管神経系(ENS)、神経内分泌系、および循環器系の調節などが含まれます(5)。細菌叢-腸-脳軸は多機能なネットワークと見なすことができ、そこでは様々な系が双方向のコミュニケーションに関与しています(6)。
 腸内細菌叢は、神経伝達物質やその前駆体を含む神経活性化合物を産生し、それらは脳内の関連する神経伝達物質やその前駆体の濃度に影響を及ぼす可能性があります(7)。腸内細菌叢は、グルタミン酸、アセチルコリン、ドーパミンといった興奮性のものや、γ-アミノ酪酸、グリシン、セロトニンといった抑制性のものなど、多種多様な神経伝達物質を産生します(8)。神経伝達物質は、運動機能、情動調節、学習、記憶形成といった、多様な認知・行動プロセスの制御において極めて重要な役割を担っています(9)。
 アルツハイマー病(AD)は、時間の経過とともに進行する神経変性疾患であり、細胞外アミロイドβプラークや、過剰リン酸化タウから構成される細胞内神経原線維変化の存在、およびコリン作動性シナプスの消失を特徴とします(10)。アルツハイマー病は認知症の中で最も一般的な形態であり、65歳以上の個人の少なくとも3分の2が罹患しています(11)。コリン作動性機能障害はアルツハイマー病の原因の一つとされています。この仮説は、アルツハイマー病においてコリン作動性ニューロンが早期に消失し、それによってアセチルコリンレベルが低下するという事実に基づいています。これは、認知機能の過程におけるアセチルコリンの重要性を裏付けるものです(11)。
 数多くの研究において、アルツハイマー病の病態生理における腸内細菌叢のディスバイオシス(菌叢バランスの乱れ)の影響が指摘されています(12)。アルツハイマー病における微生物の直接的な感染など、様々なプロセスへの腸内細菌叢の関与について、いくつかの仮説が提唱されています(12)。さらに、これらの微生物と免疫系の加齢変化とを結びつける説も存在します(13)。ある臨床研究では、アルツハイマー病患者の腸内細菌叢において、微生物の多様性の低下や細菌レベルの変動(具体的には、FirmicutesBifidobacteriumの減少、Bacteroidetesの増加など)が認められたと報告されています(14)。加齢に伴い腸内細菌叢の構成は変化し、Proteobacteriaの増加や、Bifidobacteriaおよび短鎖脂肪酸などの神経保護分子の減少が見られることが指摘されています(15)。加えて、健康な高齢者において、腸内細菌叢機能(特に短鎖脂肪酸産生に関与する遺伝子)の低下と、炎症性サイトカインレベルの上昇との間に関連があることも研究で示されています(16)。加齢に伴うディスバイオシスと神経機能の低下との関連には、慢性的な軽度炎症が関与している可能性が示唆されています。この炎症は「インフラムエイジング(inflamm-aging)」と呼ばれ、様々な加齢性疾患の共通の基盤となっています(17)。
 アルツハイマー病においては、Verrucomicrobia、 Actinobacteria、 Firmicutes、およびProteobacteria門に属する細菌の存在量が有意に減少することが示されています(18)。また、Tenericutes門やBacteroidetes門の増加も一般的に認められます(14)。このような特異な微生物組成は、脳内におけるアミロイドβの蓄積を促進します(19)。
 腸内細菌叢の変化は、病原体の定着や腸管透過性の亢進を招き、腸-脳軸の機能に悪影響を及ぼす可能性があります。Escherichia coli, Mycobacterium spp., Salmonella spp., Staphylococcus aureus, Klebsiella pneumoniaeStreptococcus spp.といった特定の腸内日和見菌は、微生物由来の産物やリポ多糖を放出します(20)。これらはアミロイドの免疫原性成分としても認識される物質です。アミロイド斑内のアミロイドβにはリポ多糖が含まれていることから、細菌由来成分が血流を介して腸から脳へと移行し、アルツハイマー病におけるアミロイドβ-42の蓄積を悪化させる可能性が示唆されています(18)。その結果、小脳や海馬といった脳の特定の部位において、機能低下が生じる恐れがあります(18)。
 本研究は、i) 新たなプロバイオティクス株としての Lactiplantibacillus plantarum AM2 の特性を検討すること、および ii) D-ガラクトース誘発ラットにおいて、Lactiplantibacillus plantarum AM2 がアルツハイマー病に伴う認知機能障害の予防に及ぼす影響を評価することを目的とした。
 
2.材料および方法
2.1.Lactiplantibacillus属菌の分離源
 混合野菜のピクルス、キャベツ、ヨーグルト、ライエブ(rayeb)(訳者注:ラバン・ライエブは、上エジプトで作られる、凝固した脱脂乳と発酵乳の一種です。そのまま飲んだり、アリーシュチーズを作るのに使われたりします)などの試料を地元の市場で購入した。ザワークラウトは、千切りキャベツ1 kgに塩化ナトリウム20 gを加え、キャベツと塩を交互に重ねて調製した。重ねたキャベツを押し固め、室温で10日間放置した。最も高いアセチルコリン産生能を示した分離株AM2は、このザワークラウトから得られたものである。
 
2.2.指標となる病原微生物
 抗菌活性を測定するための指標菌株として、以下の病原微生物が使用された:Salmonella typhimurium (ATCC 14028)、Staphylococcus aureus (ATCC 29223)、Pseudomonas aeruginosa (ATCC 27853)、Enterococcus faecalis (ATCC 29212)、Escherichia coli (ATCC 25922)、および Candida albicans (ATCC 10231)。
 
2.3.培地および化学試薬
 本研究で使用した培地は、すべて製造元の指示に従って調製した。使用した培地(g/L)は以下の通りである。De Man, Rogosa and Sharpe(MRS)ブイヨン(Merck KGaA、ドイツ・ダルムシュタット):カゼイン由来ペプトン 10.0、肉エキス 8.0、酵母エキス 4.0、D(+)-グルコース 20.0、リン酸水素二カリウム 2.0、Tween 80 1.0、クエン酸水素二アンモニウム 2.0、酢酸ナトリウム 5.0、硫酸マグネシウム 0.2、硫酸マンガン 0.04。この培地には、アセチルコリン産生の基質としてコリン(HiMedia、インド)を25 mg/L添加した(21)。Nutrient Broth(NB)培地(HiMedia、インド):ペプトン 10.0、牛肉エキス 10.0、塩化ナトリウム 5.0。Nutrient Agar(NA)培地(HiMedia、インド):ペプトン 10.0、牛肉エキス 10.0、塩化ナトリウム 5.0、寒天 15。Müller-Hinton Agar(MHA)培地(HiMedia、インド):牛肉エキス 2、カゼイン加水分解物 17.5、デンプン 1.5、寒天 17。本研究で使用した化学試薬はすべて分析用グレードのものである。人工胃液(ペプシン 3.0 mg/mL)は、塩化ナトリウム溶液(0.5%、w/v)30 mLにペプシン 0.09 gを添加して調製した。膵液(パンクレアチン 1.0 mg/mL)は、塩化ナトリウム溶液(0.5%、w/v)20 mLにパンクレアチン 0.02 gを添加して調製した。生化学的分析には、以下のキットが使用された:グルコース測定キット(Biodiagnostic社、エジプト)、終末糖化産物(AGEs)測定用ELISAキット(Cell Biolabs社、米国)、グルタチオン測定キット(Biodiagnostic社、エジプト)、マロンジアルデヒド(MDA)測定キット(Biodiagnostic社、エジプト)、総抗酸化能測定キット(Biodiagnostic社、エジプト)、アセチルコリン測定用ELISAキット(Cloud-Clone Corp.社、米国)、アセチルコリンエステラーゼ測定用ELISAキット(BT-laboratory社、中国)、核内因子カッパB(NF-κB)測定用ELISAキット(BT-laboratory社、中国)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)測定用ELISAキット(BT-laboratory社、中国)、インターロイキン-6(IL-6)測定用ELISAキット(BT-laboratory社、中国)、インターロイキン-1ベータ(IL-1β)測定用ELISAキット(Cloud-Clone Corp.社、米国)、およびアミロイドベータ1-42(Aβ1–42)測定用ELISAキット(Novus Biologicals社、米国)。
 
2.4.Lactiplantibacillus属菌の分離および純化
 ライエブ、ヨーグルト、ピクルス、またはザワークラウトから1 mLを採取し、滅菌生理食塩水(0.9%)9 mLを含むチューブに移して、10⁻¹から10⁻⁶まで段階希釈を行った。各希釈液から0.1 mLをMRS寒天培地に滴下し、滅菌スプレッダーを用いて塗抹した。その後、嫌気性ジャー内で37℃、24~48時間の嫌気培養を行った。培養後、コロニーを無作為に分離し、画線塗抹法を用いてMRS寒天培地上で純化した。
 
2.5.種菌の調製
 Lactiplantibacillus属の純粋培養菌を白金耳1杯分、MRS寒天培地の表面に接種し、嫌気性ジャーを用いて嫌気条件下、37℃で24時間培養した。分光光度計(T80+ UV/VIS、PG Instruments Ltd.製、英国)を用いて吸光度(OD600)を1.28に調整し、菌濃度10⁹(9 log)CFU/mLの種培養液を調製した。このOD600値は、増殖の対数増殖期中期に相当する。一連の実験を通じて、この標準化された接種液(1.0%)を使用した。菌濃度(CFU/mL)は、OD600と生菌数との相関を示す検量線を用いて確認した。
 
2.6.アセチルコリン産生能を有する有望なLactiplantibacillus属菌株のスクリーニングおよび選抜
 MRS培地を三角フラスコに分注し、最終液量を50 mLとした。対数増殖期中期において菌数を10⁹ CFU/mLに調整した種菌液0.5 mLをこの培地に接種し、嫌気性ジャーを用いて37℃で24時間嫌気培養を行った後、アセチルコリン濃度を測定した。
 
2.7.アセチルコリンの定量
 競合阻害酵素免疫測定(EIA)キットを用い、in vitroでアセチルコリンを定量した。具体的には、マイクロプレート上で、標準液、対照液、または無細胞上清(50 μL)に含まれる非標識アセチルコリンと、ビオチン標識アセチルコリン(50 μL)との間で、アセチルコリン特異的抗体(プレートにあらかじめコーティング済み)を介した競合阻害反応を行わせた。37℃で1時間インキュベーションした後、洗浄液350 μLを用いて未結合のコンジュゲートを3回洗浄・除去した。次に、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を結合させたアビジン100 μLを各ウェルに添加し、37℃で30分間インキュベーションした。その後、洗浄液350 μLを用いて洗浄操作を5回繰り返した。続いて、基質溶液90 μLを各ウェルに添加し、37℃で20分間インキュベーションした。インキュベーション終了後、各ウェルに停止液50 μLを添加し、プレートリーダー(Microlisa—Micro Lab Instruments社製、インド)を用いて450 nmにおける発色強度を測定した。この発色強度は、サンプル中のアセチルコリン濃度と逆比例の関係にある。標準曲線は、アセチルコリン濃度の対数をy軸、吸光度をx軸として作成し、その範囲は12.35~100 pg/mLとした。各標準液、対照液、およびサンプルについて、3回の測定値の平均を算出した。サンプルを希釈した場合は、標準曲線から読み取った濃度に希釈倍率を乗じた。
 
2.8.細菌分離株の同定
 得られた分離株をグラム染色し、顕微鏡観察(Labovision社製 AXE 2000、インド)を行った。アセチルコリンの産生量が最も高かった分離株について、分子生物学的塩基配列解析(ABI PRISM 3730xl DNAシーケンサー)、生化学的同定(Biolog社製 VITEK 2 Version 7.01)、およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)を用いたプロテオーム同定(SAI社製 LT2+、英国)を実施した。
 
2.9.16S rRNA配列を用いた分子生物学的同定
 16S rRNAの塩基配列決定は、既報(22)に従って実施した。選択した分離株からDNAを抽出し、ユニバーサルプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により16S rRNA領域を増幅した。フォワードプライマーは5'-AGA GTT TGA TCC TGG CTC AG-3'、リバースプライマーは5'-ACG GCT ACC TTG TTA CGA CTT-3'を用いた。PCR反応液の組成は、My Taq Red Mix 25 μL、DNA鋳型 8 μL、各プライマー 1 μL(20 pmol)、ヌクレアーゼフリー水 15 μLとした。PCRは、94℃で45秒、56℃で45秒、72℃で1分間のサイクルを35回繰り返す条件で行った。反応終了後、PCR産物の一部をアガロースゲル電気泳動で確認し、残りの産物はGene JET PCR Purification Kit(Thermo K0701)を用いて精製した。DNA配列はABI PRISM 3730XL DNAシーケンサーを用いて決定した。塩基配列の決定には、PCR増幅時と同じプライマーを使用した。DNAの相同性評価にはBLASTプログラムを用い、BioEditソフトウェア(バージョン7.5.0.323)を使用して多重配列アラインメントを行った(23)。系統樹の作成・表示にはMEGA 6.0624)を用いた(24)。
 
2.10.MALDI-TOF MSプロテオミクスに基づく同定
 MALDI-TOF MSにより得られたプロテオミクススペクトルを、MALDI-TOF Bactoscreenソフトウェア(バージョン2.4)を用いてリファレンススペクトルと照合し、信頼度スコアを伴う同定結果を得た(25)。
 
2.11.Lactiplantibacillus属菌のプロバイオティクス特性の評価
2.11.1.耐酸性
 耐酸性試験は、既報の方法(26)に従って実施した。Lactiplantibacillus属菌の種培養液(10⁹ CFU/mL)を調製し、3.0 M塩酸を用いてpH 2.0およびpH 3.0に調整したMRSブイヨンに1.0%の接種量で移植した。pH (5.7 ± 0.1) に調整したMRS培地を含む別の三角フラスコを陰性対照とした。培養液をよく混合した後、嫌気性ジャーを用いて37℃で嫌気培養を行った。MRS寒天培地上のLactiplantibacillus属菌の菌数を、0、60、120、および180分の時点で、混釈平板法(27)を用いて測定した。平板は嫌気性ジャー内で37℃、48時間嫌気培養し、その後、細菌コロニー数を計数してCFU/mLに換算した。生存率(%)は以下の式1に従って算出した:
Q1
 
2.11.2.胆汁耐性
 胆汁耐性試験は、既報の研究(28)に一部改変を加えて実施した。Lactiplantibacillus属菌の種培養液(10⁹ CFU/mL)を調製し、その1.0%量を、牛胆汁(10%)を0.3、0.5、および1.0%(v/v)の濃度で含むMRS液体培地に接種した。培養液は嫌気性ジャー内で37℃、4時間嫌気培養し、その後、MRS寒天培地を用いて37℃で48時間培養した後のLactiplantibacillus属菌の菌数(CFU/mL)を測定した。生存率(%)は前述の方法に従って算出した。
 
2.11.3.模擬消化管内での耐性
 Lactiplantibacillus属菌の生存性のin vitro測定は、消化管内環境を模倣した条件下で、既報(29)に従って実施した。Lactiplantibacillus属菌の培養液(一晩培養)を5000 rpmで15分間遠心分離した後、pH 7.0のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した。PBSに菌体を懸濁させ、菌懸濁液(10⁹ CFU/mL)を調製した。模擬胃液(ペプシン 3.0 mg/mL)および模擬膵液(パンクレアチン 1.0 mg/mL)は、それぞれpH 3.0およびpH 8.0に調整した。滅菌試験管に、模擬胃液または模擬膵液 1.0 mL、塩化ナトリウム溶液(0.5%、w/v)0.3 mL、および菌懸濁液 0.01 mLの混合液を添加した。陰性対照として、模擬胃液または模擬膵液の代わりに塩化ナトリウム溶液(0.5%、w/v)1.0 mLを用いた試験区を設けた。ボルテックスミキサー(Assistent Reamix 2789)を用いて試験管内をよく混合した後、37℃で0分、180分、および240分間インキュベートした。生存率(%)は、前述の方法に従って算出した。
 
2.11.4.ステンレス鋼チップへの付着
 細菌の付着性が低い滑らかなステンレス鋼表面におけるLactiplantibacillus属菌の付着能を調べるため、ステンレス鋼への付着実験を行った。本実験は、既報の研究(31)に記載された方法を一部改変して実施した。具体的には、ステンレス鋼チップ(2.2 × 2.2 cm)を洗浄・滅菌し、油脂や微生物が付着していない状態にした。各チップを、Lactiplantibacillus属菌(10⁹ CFU/mL)を含むMRS液体培地40 mLに投入し、嫌気性ジャー内で37℃、一晩、嫌気条件下で培養した。培養後、チップを慎重に取り出し、ホルムアルデヒド(F)とグルタルアルデヒド(G)を4:1の比率で混合した固定液中で24時間固定した。固定後、チップを固定液から取り出し、蒸留水で洗浄した。続いて、30%から70%までの段階的なアルコール濃度系列を用いて脱水を行い、風乾させた後、金コーティングを施して、走査型電子顕微鏡(SEM)JSM-IT200シリーズによる観察を行った。
 
2.11.5.細胞表面疎水性
 Lactiplantibacillus属菌の細胞表面疎水性は、既報の方法(32)に従って測定した。具体的には、5.0 mLの菌懸濁液(10⁹ CFU/mL)と1.0 mLの炭化水素(キシレン、ヘキサデカン、またはオクタン)の混合液を入れた2本の試験管を、ボルテックスミキサー(Assistent Reamix 2789)を用いて2分間撹拌した。一方の試験管から、滅菌パスツールピペットを用いて下層の水相を慎重に除去し、分光光度計(T80+ UV/VIS、PG Instruments Ltd.、英国)を用いて600 nmにおける初期吸光度を測定した。もう一方の試験管は37℃で1時間静置した。静置後、同様に下層の水相を除去し、600 nmにおける最終吸光度を測定した。疎水性(H%)は、以下の式に従って算出した。
Q2
ここで、AIおよび AFは、それぞれ600 nmにおける初期吸光度および最終吸光度である。
 
2.11.6.病原体に対する拮抗活性
 Lactiplantibacillus属菌の抗菌活性を、以下の病原性指標菌株に対して調査した: Salmonella typhimurium (ATCC 14028)、Staphylococcus aureus (ATCC 29223)、Pseudomonas aeruginosa (ATCC 27853)、Enterococcus faecalis (ATCC 29212)、Escherichia coli(ATCC 25922)、およびCandida albicans (ATCC 10231)。これらの指標菌株をNA培地で一晩培養した後、生理食塩水に懸濁し、10⁸ CFU/mLの懸濁液を調製した。滅菌綿棒を各懸濁液に浸し、MHAプレートの表面に、4つの辺に沿ったジグザグ状および縁(エッジ)に沿って接種を行った。滅菌済みの4 mm径コルクボーラーを用いてウェルを形成し、0.22 µm滅菌ニトロセルロース製シリンジフィルターでろ過したLactiplantibacillus属菌の液体培養ろ液50 µLを各ウェルに注入した(33)。プレートを37℃で48時間培養した。培養期間終了後、以下の式を用いて絶対単位(AU)を算出した:
Q3
ここで、(x)は各ウェル周囲のクリアゾーンの半径、(y)はウェルの半径(単位:mm)である。
 酸による阻害の影響を除外するため、Lactiplantibacillus属菌から得られた上清試料の一部を、抗菌活性測定に先立ち、1M NaOHを用いてpH 6.5に中和した。
 
2.11.7.抗生物質感受性
 Lactiplantibacillus属菌の抗生物質感受性プロファイルは、Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)のガイドラインに従って決定された(34)。具体的には、512~0.125 μg/mLの範囲で段階希釈した各種抗生物質をMRSブイヨンに添加した。その後、Lactiplantibacillus属菌をMRSブイヨンに接種(1%、v/v)し、37℃で24時間培養した。Lactiplantibacillus属菌の抗生物質耐性パターンを調べるために、以下の抗生物質を使用した:アモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸、ピペラシリン、ピペラシリン・タゾバクタム、セフタジジム、セフェピム、アズトレオナム、イミペネム、メロペネム、アミカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、シプロフロキサシン、ミノサイクリン、およびトリメトプリム・スルファメトキサゾール(Oxoid社製、米国)。各抗生物質に対する当該菌株の最小発育阻止濃度(MIC)は、VITEK 2 Version 7.01を用いて測定した。
 
2.12.アルツハイマー病を誘発したウィスター系アルビノラットにおける認知機能の評価
2.12.1.動物実験用プロバイオティクス投与液の調製
 プロバイオティクス投与液は毎日新たに調製した(35)。具体的には、菌体を8,000 rpmで5分間遠心分離し、得られたペレットを滅菌生理食塩水で2回洗浄した後、濃度を10⁹ CFU/mLに調整した。
 
2.12.2.動物および実験計画
 本動物実験のプロトコルは、エジプトのアレクサンドリア大学の動物実験委員会(ALEXU-IACUC承認番号:AU04230530302)により承認されました。すべての実験は、関連するガイドラインおよび規制に従って実施されました。すべての方法は、ARRIVEガイドラインに準拠して報告されています。体重180 ± 20 gの成体雄性ウィスター・アルビノラット24匹を、エジプト・アレクサンドリアのファロス大学の動物飼育施設から入手しました。動物は、温度21 ± 3°C、明暗サイクル12時間の換気された動物室内に設置されたステンレス製金網ケージで飼育され、基礎飼料と水道水を自由に摂取させました。1週間の馴化期間の後、動物を無作為に4つの群(各群6匹)に分けました。群1(対照群):体重190 gあたり2 mLの生理食塩水(0.9% w/v)を、8週間にわたり毎日経口投与しました(36)。群2(Lactiplantibacillus sp.投与群):体重190 gあたり2 mL(濃度10⁹ CFU/mL)を、8週間にわたり毎日経口投与しました。群3(D-ガラクトース投与群):体重1 kgあたり200 mgの用量で生理食塩水に懸濁したD-ガラクトース0.5 mLを、8週間にわたり毎日経口投与しました。群4(D-ガラクトース + Lactiplantibacillus sp.投与群):Lactiplantibacillus sp.を投与した30分後に、体重190 gあたり0.5 mLのD-ガラクトースを、8週間にわたり毎日経口投与しました。
 
2.12.3.行動試験
 行動試験は実験の第7週、午前9時から午後2時の間に行われた。海馬に依存する空間記憶を評価するために、モリス水迷路(MWM)試験(訳者注:モリス水迷路(Morris water maze)は、ラットやマウスなどのげっ歯類を用いて空間学習や記憶力を調べるための代表的な行動実験です。1984年に神経科学者のリチャード・モリスが開発し、アルツハイマー病などの脳機能研究や薬効評価に広く使われています)を実施した(37)。実験には、直径1.5 m、深さ55 cmの円形プールを用い、19 ± 2℃の透明な水を満たした。プールは、北西(NW)、北東(NE)、南東(SE)、南西(SW)の4つの等しい象限に区分けされた。直径10 cmの円形プラットフォームをSW象限の中央に設置し、学習(獲得)段階では、プラットフォームの上面が水面から2 cm突出するようにした。ラットは各象限(NW、NE、SE、SW)から1回ずつ、計3回の試行を行った。プラットフォームに到達した後、次の試行に移るまで15秒間の待機時間を設けた。その後、白色粉末(デンプン)を加えて水を不透明にした。この段階ではプラットフォームの上面が水面下2 cmに位置するようにし、ラットは各象限から1回ずつ、計3回の試行を行った。プローブ試験(探索試験)ではプラットフォームを取り除き、ラットを北(N)の位置からスタートさせて、プラットフォームがあった場所へ到達するまでの潜時を記録した。
 
2.12.4..血液および脳の採取
 実験期間終了後、ラットを12時間絶食させてから血液および脳組織の採取を行った。続いて、ケタミン(100 mg/kg)とキシラジン(5 mg/kg)の混合液を腹腔内投与して安楽死処置を施した。麻酔下において頸椎脱臼により屠殺した。グルコースおよび終末糖化産物(AGEs)を測定するため、通常の試験管および抗凝固剤であるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)でコーティングされた試験管の両方に血液を採取した。採取した試験管は直ちに氷上に置いた。生化学的分析に用いる血清サンプルを調製し、パイロジェンフリーのエッペンドルフチューブに入れて-20℃で保存した。動物の脳を摘出して海馬を分離した。生化学的マーカーを評価するために左半球を採取し、一方、右半球は10%ホルマリンで固定して顕微鏡観察用の処理を行った。
 
2.12.5..組織の調製
 生化学的解析を行うため、各ラットから左海馬(重量約0.25 g)を採取し、組織1 gあたり2 mLの冷却緩衝液(pH 7.5に調整した50 mMリン酸カリウムおよび1 mM EDTA)を加えて個別にホモジナイズした。このホモジナイズ処理には、組織ホモジナイザー(Tekmar社製 TR-10、西ドイツ)を用いた。得られたホモジネートを、冷却遠心機(Hettich社製 EBA 12R、ドイツ)を用いて4000 rpmで15分間遠心分離した。その後、上清を回収し、生化学的パラメータの測定に供するまで−80 °Cで保存した。
 
2.13.生化学的パラメータの分析
2.13.1.血清グルコース濃度の測定
 既報の方法(38)に基づき、グルコースはグルコースオキシダーゼ(GOD)によって酸化されてグルコン酸となり、その過程でH2O2が生成される。ペルオキシダーゼ(POD)の存在下、H2O2によってフェノールと4-アミノアンチピリン(AAP)が酸化され、赤色のキノンイミン色素が生成される。この色素の生成量は、試料中のグルコース濃度に比例する。血清試料または標準液0.01 mLに、調製試薬1 mLを添加した。混合液を十分に攪拌した後、37℃で10分間インキュベートした。試料および標準液の吸光度(A)を、試料の代わりに蒸留水0.01 mLを用いた試薬ブランクを対照として、510 nmで測定した。
Q4
 
2.13.2.血清中終末糖化産物(AGEs)濃度の測定
 ラット終末糖化産物 ELISAキット(A80246)を用い、サンドイッチ酵素免疫測定法により、血清、血漿、および組織ホモジネート中のラット終末糖化産物を定量測定しました。測定はメーカーのプロトコルに従って実施しました。本法では、まず捕捉抗体が終末糖化産物に結合し、続いて検出抗体およびホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジンが結合します。生じる発色シグナルは終末糖化産物 濃度に比例します。終末糖化産物濃度は、マイクロプレートリーダーを用いて450 nmの吸光度を測定し、X軸に標準液濃度、Y軸に各標準液の平均吸光度をプロットして作成した検量線に基づいて算出しました。
 
2.13.3.海馬組織における脂質過酸化の最終産物(マロンジアルデヒド;MDA)濃度の測定
 脂質過酸化は、酸性条件下、95℃で30分間反応させることによりマロンジアルデヒドとチオバルビツール酸(TBA)が反応して生成するチオバルビツール酸反応性産物を測定することで評価した。生成したピンク色の反応産物の吸光度は534 nmで測定した(39)。サンプルの吸光度(A)はブランクを対照として測定し、標準溶液の吸光度は蒸留水を対照として534 nmで測定した。
Q5
ここで、A 試料は試料の吸光度、A 標準は標準試料の吸光度である。
 
2.13.4.海馬組織における還元型グルタチオン(GSH)量の測定
 グルタチオンはエルマン試薬であるDTNB(5,5'-ジチオビス-2-ニトロ安息香酸)と反応し、黄色を呈する2-ニトロ-5-チオ安息香酸を生成する(40)。各組織抽出液0.1 mLに対し、4%スルホサリチル酸0.1 mLを加えてタンパク質を沈殿させた。サンプルを4℃で1時間静置した後、4℃、3000 rpmで10分間遠心分離した。各上清1 mLを、リン酸緩衝液(0.1 M、pH 7.4)2.7 mLおよびDTNB 0.2 mLに加えた。標準試料およびブランクの試験管は、サンプルの代わりにそれぞれ標準グルタチオン溶液0.1 mLおよび蒸留水を用いて調製した。サンプルおよび標準試料の吸光度(A)を、ブランクを対照として412 nmで測定した。グルタチオン量は以下の式に従って算出した。
Q6
ここで、A 試料は試料の吸光度、A 標準は標準試料の吸光度である。
 
2.13.5.海馬組織における総抗酸化能(TAC)の測定
 海馬における総抗酸化能は、既報の研究(41)に従って測定した。海馬の総抗酸化能は、添加された外因性H2O2の大部分を除去するサンプルの抗酸化能を評価することによって決定した。次いで、3,5-ジクロロ-2-ヒドロキシベンゼンスルホン酸を発色産物へと変換する酵素反応を用い、残存するH2O2を定量した。1 mLのプラスチック製キュベットを使用し、蒸留水を対照として、ブランクおよびサンプルの吸光度(A)を505 nmで測定し、以下の式に従って総抗酸化能を算出した。
Q7
ここで、Aブランクはブランクの吸光度、A試料は試料の吸光度である。
 
2.13.6.海馬アセチルコリン濃度の測定
 本測定には、競合阻害酵素免疫測定法を用いた。マイクロプレートの表面には、アセチルコリンに特異的なモノクローナル抗体が予めコーティングされている。プレート上のアセチルコリン特異的抗体への結合をめぐり、ビオチン標識アセチルコリンと非標識アセチルコリンとの間で競合阻害反応を行わせた。アセチルコリン濃度(pg/mgタンパク質)の対数をX軸に、吸光度(450 nm)をY軸にプロットし、対数スケールの標準曲線を作成した。
 
2.13.7海馬組織におけるアセチルコリンエステラーゼ(AChE; EC 3.1.1.7)活性の測定
 本ELISAキットは、サンドイッチELISA法を採用しています。マイクロELISAプレートには、ラットアセチルコリンエステラーゼに特異的な抗体が予めコーティングされています。プレートのウェルに標準品またはサンプルを添加し、特異的抗体と反応させました。続いて、ラットアセチルコリンエステラーゼに特異的なビオチン標識検出抗体およびアビジン-HRPコンジュゲートを各ウェルに順次添加してインキュベーションを行い、450 nmにおける吸光度(OD)を測定しました。各標準品およびサンプルの測定値(重複測定)を平均し、ゼロ標準品の平均吸光度を差し引きました。最後に、横軸に標準品の濃度、縦軸にOD値をプロットして検量線を作成しました。
 
2.13.8.ラット海馬におけるNF-κBの測定
 本ELISAアッセイは、サンドイッチELISA法に基づいています。マイクロELISAプレートには、ラットNF-κB(訳者注:NF-κB(核内因子κB)は、免疫応答、炎症、細胞の生存や増殖を制御する重要な転写因子(タンパク質複合体)です。普段は細胞質に不活性状態で存在しますが、ストレスやウイルスなどの刺激で活性化され、核へ移行して特定遺伝子の発現を促します)に特異的な抗体が予めコーティングされています。マイクロELISAプレートのウェルにサンプルを添加し、特異的抗体と反応させました。続いて、ラットNF-κB-p65に特異的なビオチン標識検出抗体およびアビジン-HRP結合体を、各ウェルに順次添加しました。ラットNF-κB濃度に比例する吸光度(OD)を、450 nmの波長で分光光度計を用いて測定しました。各標準液およびサンプルについて二重測定(デュプリケート)を行い、その平均値を算出するとともに、標準液濃度0の平均OD値を差し引きました。横軸に標準液濃度、縦軸にOD値をプロットして検量線を作成しました。
 
2.13.9.海馬組織における腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)の測定
 組織上清中のラットTNF-αを測定するため、ELISA法を用いてTNF-α量を定量した(42)。各標準液、対照、および試料について、それぞれ二連測定の吸光度(OD)の平均値を算出し、ブランク(ゼロ濃度標準液)の平均OD値を差し引いた。次いで、X軸に標準液濃度、Y軸に450 nmにおけるOD値をプロットして検量線を作成した。最後に、この検量線を用いて各試料のTNF-α濃度を算出した。
 
2.13.10.海馬組織におけるインターロイキン-6(IL-6)の測定
 ラットのIL-6濃度は、既報(43)の方法に従い、サンドイッチELISAキットを用いて測定し、450 nmにおける吸光度(OD)を記録した。各キャリブレーターおよびサンプルについて、重複測定値の平均からゼロキャリブレーターの平均OD値を差し引く補正を行った。その後、x軸にIL-6濃度、y軸に対応するOD値をプロットし、対数スケールの検量線を作成した。
 
2.13.11.海馬組織におけるインターロイキン-1β(IL-1β)の測定
 組織上清中のIL-1β濃度を定量的に測定するために、ラット用IL-1β ELISAキットを使用した。分析は既報43の手順に従って実施し、プレートの吸光度(OD)は450 nmで測定した。各標準試料の補正平均ODを、対応する濃度(pg/g組織)に対して対数スケールでプロットし、検量線を作成した。補正平均ODは、各測定値の平均ODから陰性対照の平均ODを差し引くことで算出した。
 
2.13.12.海馬におけるアミロイドベータペプチド1–42(Aβ1–42)の定量
 上清中のラットアミロイドβ1–42濃度は、既報の研究(44)に記載された方法を用いて定量した。本アッセイでは、サンドイッチ法による酵素免疫測定法(ELISA)を用いた。アミロイドβ1–42特異的抗体をあらかじめマイクロプレートにコーティングしておき、ウェルに標準液および試料を添加して、存在するアミロイドβ1–42を固定化抗体に結合させた。未結合物質を除去した後、アミロイドβ1–42特異的ビオチン標識抗体をウェルに添加した。洗浄工程を経て、HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)標識アビジンをウェルに添加した。未結合のアビジン・酵素試薬を除去するための洗浄を行った後、基質溶液を添加したところ、最初の工程で結合したアミロイドβ1–42量に比例して発色が認められた。発色反応を停止させ、450 nmにおける吸光度を測定した。線形回帰による検量線を作成し、検量線の範囲内にある希釈試料の吸光度値を用いて試験試料中のラットアミロイドβ1–42濃度を算出し、その値に試料の希釈倍率を乗じた。
 
2.13.13.海馬におけるカスパーゼ-3(CASP-3)濃度の測定
 本アッセイキットのマイクロプレートは、カスパーゼ-3特異的抗体でプレコーティングされています。マイクロプレートの各ウェルに、標準液またはサンプルを、ビオチン標識カスパーゼ-3特異的抗体と共に添加しました。続いて、HRP標識アビジンを各ウェルに添加しました。3,3′,5,5′-テトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液を添加した後、カスパーゼ-3ビオチン標識抗体、および酵素標識アビジンを含むウェルのみが発色しました。各サンプルの吸光度(OD)を450 nmで測定し、ブランクウェルの値を差し引きました。その後、標準曲線を用いて各サンプルのカスパーゼ-3濃度を算出しました。
 
2.13.14.組織病理学的検討
 まず、海馬組織の小片を10%ホルマリン溶液で固定・保存した。本解析では、先行研究(45)に記載された手順に従い、パラフィン包埋切片の作製およびヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色を含む標準的な組織学的技法を用いた。固定された組織検体に対し脱水処理を行い、エタノール濃度を段階的に高めながら順次浸漬し、1時間かけて無水エタノールへと置換した。続いて、キシレンによる置換を5分間ずつ3段階で行い、その後、パラフィンワックスとキシレンの混合液(1:1)に10分間浸漬した。さらに、65℃のパラフィンワックス中で約2時間の置換を3回繰り返した。ミクロトームを用いて厚さ5 μmの切片を精密に作製し、スライドガラスに貼り付けた。詳細な検討を行うため、一連のスライド標本を慎重に作製し、これらにH&E染色を施して、その後の組織学的解析に供した。
 
2.14.統計解析
 行動試験および生化学的パラメータの統計解析は、SPSS-16ソフトウェアを用い、一元配置分散分析(ANOVA)を適用して実施した。4群(n = 24)における有意水準はp < 0.05に設定した。
 
3.結果
3.1.アセチルコリン産生菌 Lactiplantibacillus属のスクリーニング
 「材料と方法」の項で述べた通り、混合野菜のピクルス、ザワークラウト、ヨーグルト、およびライエブから Lactiplantibacillus 属の菌株を分離した。分離はMRS寒天培地を用いて行い、既報(46)に従って9種類の菌株を単離・純化した。各 Lactiplantibacillus属菌株について、その無細胞上清によるアセチルコリン産生能を調べた。アセチルコリンを産生できたのは6株のみであった。Lactiplantibacillus sp. AM2が最も高いアセチルコリン産生量(78.4 pg/mL)を示したため、同菌株を最も産生能の高い Lactiplantibacillus分離株として選定した。本菌株はMRS寒天培地での月1回の継代培養において安定性を示し、18ヶ月間にわたり一貫して78.1 pg/mLのレベルでアセチルコリンを産生した。
 
3.2.Lactiplantibacillus sp. AM2の同定
3.2.1.Lactiplantibacillus sp. AM2の形態学的特性
 MRS寒天培地における分離株AM2の生育は、わずかに乳白色を帯びた中程度の琥珀色のコロニーを形成した(図1A)。顕微鏡観察(図1B)の結果、分離株AM2はグラム陽性の非芽胞形成桿菌であることが明らかになった。
 
F1
図1. 分離株AM2の培養(A)および顕微鏡観察(B)。
 
3.2.2.分離株AM2の生化学的特性解析
 Lactiplantibacillus分離株AM2の生化学的プロファイルを、表1に示す。
 
表1.Lactiplantibacillus分離株AM2の生化学的特性。
T1a
T1b
 
3.2.3.分子生物学的同定
 Lactiplantibacillus属分離株AM2の染色体DNAから増幅された相同16S rRNA領域の解析により、そのrRNA断片はLactiplantibacillus plantarumの相同断片と100%の同一性を示すことが明らかになりました。当該配列は、アクセッション番号ON142385としてGenBankに登録されています。近縁細菌種の中におけるLactiplantibacillus sp. AM2の系統的位置を、系統樹として図2に示します。
 
F2
図2. Lactiplantibacillus sp. AM2と最も近縁な細菌種との間の系統関係。系統樹は、MEGA 6.06ソフトウェアを用いた最尤法により作成された。
 
3.2.4.マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)による同定
 Lactiplantibacillus sp. AM2株のプロテオームプロファイルを標準スペクトルと比較するために、MALDI-TOF MSを用いました。得られたスコア値(0.85)はLactiplantibacillus plantarumと一致し、同属・同種として高い信頼度で同定されました。したがって、分離株AM2はLactiplantibacillus plantarumと同定され、エジプトのアレクサンドリアにあるEgyptian Microbial Culture Collection Network(受託番号:EMCCN 4080)に寄託されました。
 
3.3.Lactiplantibacillus plantarum AM2のプロバイオティクス特性の評価
 Lactiplantibacillus plantarum AM2について、酸、胆汁、ペプシン、およびパンクレアチンに対する耐性を含め、胃液の主要成分に対する耐性をin vitroで評価した。
 
3.3.1.耐酸性
 Lactiplantibacillus plantarum AM2について、pH 2およびpH 3の人工胃液を想定した溶液中で試験を行った。表2に示すように、Lactiplantibacillus plantarum AM2は、pH 2およびpH 3の条件下で3時間曝露した後、それぞれ37.8%および81.7%の生存率を維持した。pH 2においては、曝露1時間後および2時間後で、それぞれ86.7%および65.6%の生存率を保持していた。一方、pH 3に対してはより高い耐性を示し、曝露1時間後および2時間後の生存率はそれぞれ94.9%および88.4%であった。
 
表2.消化管内溶液中におけるLactiplantibacillus plantarum AM2の生存率(経時的変化)
T2
 
3.3.2.胆汁耐性
 Lactiplantibacillus plantarum AM2株は、MRS培地中において0.3%、0.5%、または1.0%の牛胆汁に対し良好な生存性を示し、高い耐性を示した(表3)。本菌株の生存率は、0.5%および1.0%の牛胆汁への曝露後、それぞれ3.93%および8.68%低下した。牛胆汁濃度の増加に伴い、生存率が低下する傾向が認められた。
 
表3.異なる濃度の牛胆汁存在下における Lactiplantibacillus plantarum AM2 の生存率。
T3
 
3.3.3.人工胃液および人工膵液を模倣した条件下における Lactiplantibacillus plantarum AM2の生存性
 表4に示すように、Lactiplantibacillus plantarum AM2は、人工胃液(pH 3)および人工膵液(pH 8)中での3時間のインキュベーション後、それぞれ81.25%および99.1%の生存率を維持しました。一方、4時間のインキュベーション後においても、AM2株は人工胃液および人工膵液中でそれぞれ80.43%および97.2%の生存率を維持しました。
 
表4.人工胃液および人工膵液中におけるLactiplantibacillus plantarum AM2の経時的な生存率。
T4
 
3.3.4.ステンレス鋼チップへの Lactiplantibacillus plantarum AM2 の付着
 ステンレス鋼チップへの Lactiplantibacillus plantarum AM2 の付着状況を、図3Aおよび3Bに示す。SEM画像(図3Aおよび3B)から明らかになったように、本菌株は、特定の受容体や線維状構造を介することなく、凝集塊を形成してステンレス鋼チップに付着した。
 
F3
図3. ステンレス鋼チップに付着した Lactiplantibacillus plantarum AM2 菌体(SEM像:5,000倍 (A) および10,000倍 (B))。各種炭化水素に対する Lactiplantibacillus plantarum AM2 の疎水性(%)(C)。
 
3.3.5.Lactiplantibacillus plantarum AM2の細胞表面疎水性
 図3Cに示す結果から、Lactiplantibacillus plantarum AM2はヘキサデカンに対して最大の疎水性(34.3%)を示し、オクタンに対して最小の疎水性(19.5%)を示したことが明らかになった。また、同菌株はキシレンに対しても、比較的中程度の疎水性(28.8%)を示した。
 
3.3.6.Lactiplantibacillus plantarum AM2の抗菌活性
 表5に示すように、Lactiplantibacillus plantarum AM2の培養上清は、グラム陽性およびグラム陰性の病原細菌のいずれに対しても阻害作用を示したが、Candida albicans(ATCC 10231)に対しては検出可能な阻害作用を示さなかった。Lactiplantibacillus plantarum AM2の抗菌活性が最も高かったのはEscherichia coli(ATCC 25922)に対するものであった(2.86 AU)。AM2株はSalmonella typhimurium(ATCC 14028)、Pseudomonas aeruginosa(ATCC 27853)、およびEnterococcus faecalis(ATCC 29212)に対しても有効な阻害作用を示した一方、抗菌活性が最も低かったのはStaphylococcus aureus(ATCC 29223)に対するものであった(1.77 AU)。その一方で、Lactiplantibacillus plantarum AM2の培養上清を中和したところ、供試した指標病原菌に対する抗菌活性は消失した。
 
表5.ヒト病原菌に対する Lactiplantibacillus plantarum AM2 の抗菌活性
T5
 
3.3.7.Lactiplantibacillus plantarum AM2の抗菌薬感受性
 表6は、Lactiplantibacillus plantarum AM2が、アモキシシリン、アモキシシリン/クラブラン酸、ピペラシリン、ピペラシリン/タゾバクタム、セフタジジム、セフェピム、アズトレオナム、イミペネム、メロペネム、アミカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、シプロフロキサシン、ミノサイクリン、およびトリメトプリム/スルファメトキサゾールに対して感受性を示すことを示している。
 
表6.Lactiplantibacillus plantarum AM2の抗生物質感受性プロファイル
T6
 

3.3.8.モリス水迷路試験におけるラットの潜時に対するLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用投与の影響

 本行動試験において、D-ガラクトース(D-gal)投与群は、試験の3つの段階すべてにおいて対照群と比較して潜時の有意な増加(P < 0.05)を示した。一方、併用投与群(Lactiplantibacillus plantarumおよびD-ガラクトース)は、D-ガラクトース投与群と比較して、これら3つの段階において潜時の著しい減少(P < 0.05)を示した(表7)。
 
表7.モリス水迷路試験におけるラットの潜時に対するLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用の影響
T7
値は平均値 ± 標準誤差(S.E.)で示し、各群の例数は6(n = 6)とした。 a 対照群と比較して、平均値に有意差が認められた(p < 0.05)。 b D-ガラクトース群と比較して、平均値に有意差が認められた(p < 0.05)。
 
3.4.生化学的分析
3.4.1.ラットの血清グルコースおよび終末糖化産物濃度に対するLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用投与の影響
 表8に示す通り、D-ガラクトース投与群では対照群と比較してグルコースおよび終末糖化産物濃度が著しく上昇しました(P < 0.05)。一方、プロバイオティクスAM2とD-ガラクトースを併用投与した群では、D-ガラクトース単独投与群と比較して、これらの濃度が大幅に低下しました(P < 0.05)。また、Lactiplantibacillus plantarum投与群では、対照群およびD-ガラクトース投与群のそれぞれと比較して、グルコースおよび終末糖化産物濃度の有意な改善が認められました。
 
表8.ラットにおける、Lactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用が、血清グルコース・終末糖化産物濃度、酸化ストレスマーカー・抗酸化能、海馬におけるアセチルコリン濃度・アセチルコリンエステラーゼ活性、炎症マーカー、ならびに海馬におけるアミロイドβ(Aβ1–42)・カスパーゼ-3に及ぼす影響
T8

値は平均値 ± 標準誤差(S.E.)で示し、各群の例数は6(n = 6)とした。

a 対照群と比較して、平均値に有意差が認められた(p < 0.05)。

b D-ガラクトース群と比較して、平均値に有意差が認められた(p < 0.05)。

(略語)AGE:終末糖化産物、MDA:マロンジアルデヒド、GSH:グルタチオン、ACh:

アセチルコリン、AChE:アセチルコリンエステラーゼ、Aβ:アミロイドβ、CASP:カスパーゼ

 
3.4.2.ラットにおけるLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用が酸化ストレスマーカーと総抗酸化能に及ぼす影響
 表8に示すように、D-ガラクトース投与群では、対照群と比較してマロンジアルデヒドレベルの顕著な上昇、ならびにグルタチオンおよび総抗酸化能の有意な低下(P < 0.05)が認められた。一方、Lactiplantibacillus plantarumとD-ガラクトースを併用した群では、D-ガラクトース単独投与群と比較して、マロンジアルデヒドレベルの著しい低下(P < 0.05)、およびグルタチオンと総抗酸化能の顕著な増加(P < 0.05)が示された。
 
3.4.3.海馬におけるアセチルコリン量およびアセチルコリンエステラーゼ活性に対するLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用投与の影響
 アセチルコリン量およびアセチルコリンエステラーゼ活性の測定結果から、対照群と比較して、D-ガラクトース投与群ではアセチルコリン量の著しい低下およびアセチルコリンエステラーゼ活性の上昇(P < 0.05)が認められた。一方、表8に示すように、Lactiplantibacillus plantarumとD-ガラクトースを併用投与した群では、D-ガラクトース単独投与群と比較して、アセチルコリン量の顕著な増加(P < 0.05)およびアセチルコリンエステラーゼ活性の低下が認められた。
 
3.4.4.ラット海馬における炎症マーカー、アミロイドβ(Aβ1–42)、およびカスパーゼ-3(CASP-3)に対するLactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用投与の影響
 表8に示すように、D-ガラクトース投与群では、対照群と比較してNF-κB、TNF-α、IL-6、IL-1β、アミロイドβ1–42、およびカスパーゼ-3(訳者注:カスパーゼ-3(Caspase-3)は、プログラムされた細胞死であるアポトーシスの実行段階で中心的な役割を果たすタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)です。細胞内の重要な標的タンパク質を切断して、細胞を秩序立って解体する「死刑執行人」として知られています)のレベルが著しく(P < 0.05)上昇した。一方、Lactiplantibacillus plantarumとD-ガラクトースを併用した群およびLactiplantibacillus plantarum単独投与群では、それぞれD-ガラクトース投与群や対照群と比較して、これらのマーカーが大幅に改善した(P < 0.05)。
 
3.4.5.ラット海馬(歯状回)の組織病理学的構造に対する Lactiplantibacillus plantarum AM2、D-ガラクトース、およびそれらの併用投与の影響
 図4(A-D)は、異なる実験的処置を施したラット歯状回における組織学的変化を示しており、海馬の形態に対する各処置の明確な影響が認められる。対照群および Lactiplantibacillus plantarum 投与群の歯状回では、分子層、顆粒細胞層、多形層から成る明瞭な三層構造が確認され、血管分布も正常であった。これに対し、D-ガラクトース投与は歯状回に著しい変化を引き起こした。顆粒細胞層では細胞数の減少と核濃縮(濃染を伴う)が認められた。分子層内では、細胞傷害を示す核周囲ハローや血管拡張が顕著であった。一方、Lactiplantibacillus plantarum と D-ガラクトースの併用投与では、D-ガラクトースによる傷害の部分的な改善が認められた。形態的に正常な顆粒細胞の増加が見られ、歯状回の組織構造にある程度の改善が確認されたものの、一部の細胞には依然として核濃縮が認められた。
 
F4
 

図4. ラット海馬における歯状回領域の顕微鏡写真(H&E染色、×400)。

パネルAおよびB(対照群およびLactiplantibacillus plantarum投与群)は、分子層(M)と顆粒細胞層(g)が明瞭に区別される正常な構造を示している。多形層(Plm)は正常な外観を呈し、顆粒細胞層には多数の健全な顆粒細胞(黒矢印)および錐体細胞(黒点線矢印)が認められる。

パネルC(D-gal)はD-ガラクトース投与群の切片であり、顆粒細胞層の細胞密度の低下、核濃縮(青矢印)、核周囲ハロー(赤矢印)、および血管拡張(緑矢印)が見られ、神経変性(黒丸)や脳軟化(黒四角)が示唆される。

パネルD(Lactiplantibacillus plantarumおよびD-ガラクトース投与群)では、健全な顆粒細胞(黒矢印)や錐体細胞(黒点線)の増加、および正常な血管(オレンジ色)が認められ、著明な改善が見られる。分子層(M)および顆粒細胞層(g)は健全な状態にある。

 
4.考察
 アルツハイマー病の発症は、環境要因と遺伝的要因の複合的な影響によるものです。近年、腸内細菌叢のバランスの乱れ(ディスバイオシス)が、炎症の惹起、ひいてはアルツハイマー病の進行や病態に重要な役割を果たしていることが示唆されています(47)。腸内細菌叢は、神経系を介して、あるいは血液-脳関門(BBB)を通過し得る化学物質を介して、中枢神経系(CNS)と相互に情報を伝達しています(47)。特に迷走神経は、中枢神経系の神経細胞と腸管の神経細胞とを接続しています。消化管内細菌叢は、GABA、ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミン、アセチルコリンといった神経化学物質を産生し、これらは中枢神経細胞の活動に影響を及ぼして行動を変化させます(48)。一方で、腸内細菌叢もまた、神経伝達物質を介した脳からのシグナルに応答します(49)。したがって、腸内細菌叢-腸-脳軸(MGBA)は、腸内細菌叢、中枢神経系、内分泌系、免疫系が双方向のコミュニケーションに関与する多機能なネットワークであると言えます(6)。腸内細菌叢において最も多く見られる属の一つに、Lactiplantibacillus属があります(47)。そこで本研究では、ラットにおける神経変性を改善するために、アセチルコリン産生能を有する有用なLactiplantibacillus属細菌を選抜・同定することを主な目的として実施されました。
 予備的な段階として、混合野菜のピクルス、ザワークラウト、ヨーグルト、およびライエブから9種類の異なる細菌株を分離し、アセチルコリン産生能についてスクリーニングを行った。その結果、アセチルコリン産生能を示したのは6種類のLactiplantibacillus属菌のみであった。これらの中で、Lactiplantibacillus sp. AM2は最も高いアセチルコリン産生量を示したことから、同属の分離株の中で最も有望な菌株として選定された。なお、混合野菜のピクルス、ザワークラウト、ヨーグルト、およびライエブからのLactiplantibacillus属菌の分離については、他の研究でも報告されている(50–52)。
 最も有望なLactiplantibacillus分離株であるAM2株を選定し、16S rRNA配列解析を用いてさらなる同定を行いました。Lactiplantibacillus属の基準株におけるPCR産物の塩基配列決定および16S rRNA配列の比較については、これまでに報告されています(53-55)。本研究では、新たに分離されたAM2株と近縁のLactiplantibacillus種との系統関係を解析し、AM2株がLactiplantibacillus plantarumと100%の配列一致率で同定されることを明らかにしました。16S rRNA解析から得られたデータは、Lactiplantibacillus plantarumの形態学的および生化学的特性と一致しています。Lactiplantibacillus plantarumの同定に用いられる形態学的および生化学的特性については、他の研究(53,56)でも報告されています。16S rRNA配列解析の結果、Lactiplantibacillus plantarum AM2株と系統的に最も近縁な種との間で、99.33%から100%という高い類似性が認められました。そこで、AM2株のタンパク質プロファイルを基準スペクトルと比較するために、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)を用いました。MALDI-TOF MSデータベースによる解析の結果、AM2株に最も適合する種はLactiplantibacillus plantarumであることが示されました。これらの知見は、タイ(魚類)の腸管から分離されたLactiplantibacillus plantarumの同定にMALDI-TOF MSを用いた先行研究(57)の結果と整合しています。Lactiplantibacillus属の分類学的枠組みにおいて、Lactiplantibacillus plantarumは、乳酸菌(Lactobacillus属群)のうち通性ヘテロ発酵を行うグループに属しています。本種は多様かつ適応力に富んだ性質を示し、乳製品、食肉、魚介類、さらには多種多様な植物発酵食品など、様々な生態学的ニッチ(生息環境)で見出されます。Lactiplantibacillus plantarumの多くの菌株は、魅力的な風味や食感を持つ幅広い発酵食品や飲料の製造において、すでにスターターカルチャーとして利用されています(58)。
 プロバイオティクス候補株としての利用を検討するため、Lactiplantibacillus plantarum AM2株の胃液成分に対する耐性をin vitroで評価しました。プロバイオティクス細菌は腸に到達する前に、胃を通過する過程で生存し続ける必要がありますが、胃では胃酸の分泌が、摂取された多くの微生物に対する主要な防御機構として働いています。pH 2におけるAM2株の生存率はpH 3の場合よりも低く、これは低pH環境が強い阻害作用を及ぼしたことを示しています。同様に、pH 3におけるLactiplantibacillus plantarum 7株の生存についても、これまでに報告されています。主要なLactiplantibacillus株の中には、pH 2.5から4.0の範囲では生存を維持するものの、それより低いpH値では生存率が低下するものがあることが観察されています(52)。ここで注目すべき点は、ヒトの胃内pHは空腹時には1ですが、食後には2.5から4の範囲で変動するということです(59,60)。したがって、Lactiplantibacillus plantarum AM2株が示す高い耐性は、胃の酸性環境下での生存を可能にし、効果的に機能することにつながる可能性があります。
 乳酸菌をプロバイオティクスとして利用する可能性を評価する際、一般的に、胆汁酸の影響に耐える能力を評価することが不可欠です。胆汁酸は肝臓でコレステロールから産生され、抱合型の状態で胆嚢から十二指腸へと放出され、腸内では0.3~0.5%の濃度に保たれています。抱合型および非抱合型の胆汁酸は、Escherichia coli sp.、 Klebsiella sp.、Enterococcus sp.といったグラム陰性菌およびグラム陽性菌の双方に対し、in vitro(試験管内)で抗菌活性を示すことが知られています(61)。胆汁酸は結腸において、主に微生物の作用により広範な化学的修飾を受け、脱抱合、脱水酸化、脱水素、脱グルクロン酸抱合などの過程を経て変化します。Lactiplantibacillus plantarum AM2株は、MRS培地中において0.3%、0.5%、または1.0%の濃度の牛胆汁(ox-bile)に対して耐性を示すことが確認されており、このことは同株が小腸内で生存可能であることを示唆しています。さらに、AM2株は高い胆汁酸塩耐性レベルを有しており、他のプロバイオティクス用Lactiplantibacillus株と比較しても高い耐性を示すことが明らかになりました(52,62)。Lactiplantibacillus plantarum AM2株の菌体は、関連タンパク質の発現によって胆汁に対する耐性を獲得していると考えられます(62)。
 ヒト消化管の胃液および膵液を模倣した条件下において、Lactiplantibacillus plantarum AM2株は、3時間のインキュベーション後にそれぞれ81.25%および99.1%、4時間のインキュベーション後にそれぞれ80.43%および97.2%の生存率を維持しました。この結果は、同菌株が胃を通過し、効率的に作用する可能性が高いことを示唆しています。なお、Lactiplantibacillus plantarum S56株を除く6つのLactiplantibacillus plantarum株について、模倣膵液(pH 8.0)中での240分間のインキュベーション後の生存については、以前に報告されています(52)。
 Lactiplantibacillus plantarum AM2が粘膜表面や上皮細胞に付着する能力は、プロバイオティクス株として重要な特性です。細菌が胃粘膜に付着する現象は、上皮の粘液、細菌表面のタンパク質、および細菌の莢膜(カプセル)が関与する、複雑かつ多因子的なプロセスです(63)。しかし、ステンレス鋼チップに対するAM2株の付着においては、受容体や線維状構造(フィブリル)の関与は認められませんでした。その代わりに、AM2株の菌体は凝集塊を形成し、凝集した状態で付着・沈着していました。さらに、Lactiplantibacillus plantarum AM2は、ヘキサデカン、オクタン、およびキシレンに対して疎水性を示しました。これらの知見は、Lactiplantibacillus plantarum AM2が、上皮への付着に関連する疎水性によって付着能を有していることを示しています(64)。これらの結果は、Lactiplantibacillus属の疎水性に関する他の報告とも整合するものです(31,32)。
 Lactiplantibacillus plantarum AM2株は、アモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸、ピペラシリン、ピペラシリン・タゾバクタム、セフタジジム、セフェピム、アズトレオナム、イミペネム、メロペネムなどの細胞壁合成阻害剤に対して感受性を示した。また、シプロフロキサシンなどのDNA複製阻害剤や、アミカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、ミノサイクリンなどのタンパク質合成阻害剤に対しても感受性であった。さらに、AM2株はトリメトプリム・スルファメトキサゾールなどの葉酸代謝阻害剤に対しても感受性を示した。Lactiplantibacillus属の他のいくつかの菌株においても、同様の抗生物質感受性パターンが観察されている(65)。プロバイオティクス候補株が、抗生物質耐性遺伝子を腸内細菌叢に伝達しないことは重要である。しかし、一部のLactobacillus属菌株については、バンコマイシン(66)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(67)、ポリミキシンB、ゲンタマイシン、カナマイシン(68)に対する、伝達性のない(非伝達性)、染色体上の遺伝子に由来する固有の耐性を有することが報告されている。
 Lactiplantibacillus plantarum AM2株の指標病原菌に対する抗菌活性は、Escherichia coli (ATCC 25922)、Salmonella typhimurium (ATCC 14028)、Pseudomonas aeruginosa (ATCC 27853)、Enterococcus faecalis(ATCC 29212)、およびStaphylococcus aureus(ATCC 29223) に対してそれぞれ異なる強さを示しました。一方、Candida albicans (ATCC 10231) に対しては、検出可能な抗真菌活性は認められませんでした。他の研究においても、17種類のLactiplantibacillus plantarum株がEscherichia coliStaphylococcus aureusに対して異なる抗菌活性を示した(69)ことや、複数のLactiplantibacillus plantarum株がSalmonella typhimuriumやその他の特定の指標病原菌に対して活性を示したことが報告されています(70-72)。本研究で観察されたように、Lactiplantibacillus plantarum AM2株の阻害活性は、アルカリによる中和処理後に消失しました。したがって、AM2株の拮抗活性は、培養上清中に産生された有機酸に起因する可能性があります。同様に、一部のLactiplantibacillus株がグラム陰性病原菌に対して示す阻害効果も、有機酸の産生によるものとされています(63)。また、乳酸菌は、脂肪酸、過酸化水素、阻害性代謝産物、バクテリオシン、およびバクテリオシン様物質を産生し、それらが異なる抗菌活性を示すことも報告されています(60-74)。
 本研究では、ウィスター・アルビノラットにおける神経変性を改善するLactiplantibacillus plantarum AM2の可能性について評価を行った。アルツハイマー病を誘発するためにD-ガラクトースを投与したラット群は、対照群と比較して、モリス水迷路試験の3つの段階すべてにおいて到達までの所要時間(潜時)の増加を示した。これは、D-ガラクトースの投与によって老化プロセスが誘発されたことに起因する可能性がある(75)。しかし、D-ガラクトースと併せてプロバイオティクスであるLactiplantibacillus plantarum AM2を投与したところ、D-ガラクトース単独投与群と比較してこれらの段階における所要時間が短縮した。このことは、当該プロバイオティクスが認知機能障害を軽減する可能性を示唆している(76)。
 また、本研究の結果から、D-ガラクトース投与群では対照群と比較して、終末糖化産物およびグルコースのレベルが有意に上昇することが明らかになりました。これらの知見は、D-ガラクトースが酸化産物である終末糖化産物を増加させること、およびグルコースレベルの上昇が神経炎症に関与し、それが神経変性を促進するという別の研究(77)の報告と整合しています。一方、Lactiplantibacillus plantarum投与群では、D-ガラクトース投与群と比較して終末糖化産物およびグルコースレベルの著しい低下が認められました。これは、AM2株が持つ抗酸化作用により、酸化ストレスや神経変性が軽減されたためと考えられます。Lactiplantibacillus plantarumの抗酸化能については、以前の別の研究(78)でも注目されており、同菌株(NCIMB 8826株)がフェルラ酸などの抗酸化物質を多量に産生することが報告されています。
 本研究では、疾患状態および健常状態におけるレベルを評価するため、海馬ホモジネートを用いて様々なバイオマーカーを分析した。対象としたバイオマーカーには、マロンジアルデヒド、グルタチオン、総抗酸化能、アセチルコリン、アセチルコリンエステラーゼ、NF-κB、TNF-α、IL-6、IL-1β、アミロイドβ、およびカスパーゼ-3が含まれる。その結果、D-ガラクトースを投与したラットにおいて、海馬のマロンジアルデヒドレベルの上昇とグルタチオンおよび総抗酸化能レベルの低下を特徴とする異常が認められた。これは組織内でのフリーラジカルの過剰産生を示唆しており、酸化ストレスの増大や、抗酸化系と活性酸素種(ROS)との間の不均衡を招いているものと考えられる(79)。同様に、別の研究(80)においても、D-ガラクトースが酸化ストレスの指標であるマロンジアルデヒドレベルを上昇させ、グルタチオンや総抗酸化能といった抗酸化物質のレベルを低下させることが報告されている。一方、Lactiplantibacillus plantarumAM2株による処置は、海馬におけるマロンジアルデヒドレベルを有意に低下させるとともに、グルタチオンおよび総抗酸化能レベルを改善させた。この効果はAM2株の抗酸化作用に起因するものであり、同株は抗酸化物質と活性酸素種との間のバランスを回復させるのに寄与していると考えられる(81)。
 アセチルコリンは、認知機能、特に記憶や学習において極めて重要な役割を果たす神経伝達物質です。アセチルコリンエステラーゼは、シナプスにおける神経信号伝達を終結させ、アセチルコリンの拡散や近傍の受容体の活性化を防ぐことで、コリン作動性システムにおいて不可欠な役割を担っています。本研究において、D-ガラクトース投与群は対照群と比較して、アセチルコリンレベルの有意な低下とアセチルコリンエステラーゼレベルの著しい上昇を示しました。これらは、コリン作動性ニューロンにおけるシナプス喪失に起因する神経変性疾患の指標となる変化です(82)。別の研究(83)でも、D-ガラクトースがアセチルコリンレベルに悪影響を及ぼし、アセチルコリンエステラーゼ活性の上昇を招くことが報告されています。しかし、Lactiplantibacillus plantarumとD-ガラクトースを併用したところ、アセチルコリンおよびアセチルコリンエステラーゼのレベルがいずれも著しく改善しました。これは、Lactiplantibacillus plantarumがコリン作動性機能障害に対して海馬組織を保護する作用を持ち、アルツハイマー病からの回復を助けたためである可能性があります(36)。
 炎症性サイトカインおよびその産生を制御する因子は、神経変性疾患(5)において極めて重要な役割を果たしており、アミロイドβの蓄積やカスパーゼ-3の活性化に関与しています。D-ガラクトース投与群において海馬内のNF-κB、TNF-α、IL-6、IL-1β、アミロイドβ、およびカスパーゼ-3が有意に増加したことは、過剰な活性酸素種産生に起因すると考えられます(84)。この活性酸素種産生はエネルギーバランスの不均衡や酸化ストレスを介したNF-κBの活性化を招き、炎症性サイトカインの産生とそれに続く行動機能の低下を促進します(85)。さらに、炎症性サイトカインは神経炎症に関与し、これがアミロイドβの蓄積を誘発するとともにカスパーゼ-3レベルを上昇させます。D-ガラクトース投与ラットにおける活性酸素種レベルの上昇は、アポトーシスの主要な媒介因子であるカスパーゼ-3を活性化させ、神経変性を引き起こす可能性もあります。つまり、酸化ストレスと炎症が神経細胞のアポトーシスを促進するのです(86)。対照的に、D-ガラクトース投与に加えてAM2株を併用した群では、D-ガラクトース単独投与群と比較して、炎症性バイオマーカーおよびカスパーゼ-3の産生が効果的に抑制されました。これまでの研究により、Lactiplantibacillus属の菌株は、NF-κB、TNF-α、IL-6、IL-1β、アミロイドβ、およびカスパーゼ-3の産生を抑制することで抗炎症作用を示すことが明らかになっています(87,88)。
 これらの知見をさらに裏付けるため、すべての実験群において海馬組織の組織病理学的特徴を検討した。予想通り、D-ガラクトース投与群では様々な変化が認められた。具体的には、顆粒層および多形層における細胞密度の低下(核濃縮や過染を伴う)、細胞傷害を示す核周囲ハローの出現、そして分子層における血管拡張などが観察された。これらの所見は、D-ガラクトースが脳に及ぼす有害な影響を報告した先行研究(89,90)と一致するものである。今回観察された海馬組織の損傷は、D-ガラクトース誘発性の酸化ストレスが脂質過酸化およびそれに続く神経変性に寄与するという考え方と整合している(91)。対照的に、D-ガラクトース投与ラットにAM2株を投与した群では、酸化物質と抗酸化物質のバランスが保たれており、炎症マーカーに対するプロバイオティクスの調節作用が示唆された(92)。本研究で明らかになったように、AM2株が神経変性を遅延させる能力は、コリン代謝の調節やコリン作動性神経伝達を増強し得るアセチルコリンの産生、炎症の調節、アポトーシスの制御、D-ガラクトース誘発性のアセチルコリンエステラーゼ過剰発現の抑制、そしてアミロイドβ沈着の抑制など、多岐にわたるメカニズムを介して発揮されていると考えられる。
 
5.結論
 Lactiplantibacillus plantarum AM2は、有望なプロバイオティクスとしての特性およびアセチルコリン産生能を示した。さらに、D-ガラクトース誘発アルツハイマー病モデルのウィスター系ラットを用いた生体内(in vivo)試験において、本菌株は神経変性を効果的に抑制した。今後の研究では、ヒトにおけるアルツハイマー病管理への有効性を検証するための臨床試験を優先的に実施するとともに、アセチルコリンを介した神経保護作用のメカニズムを解明する必要がある。

参考文献(本文中の文献No.は原論文の文献No.と一致していますので、下記の論文名をクリックして、原論文に記載されている文献を参考にしてください)

 

 この文献は、Sci Rep. 2025 Jun 20;15:20186.に掲載されたNeuroprotective and probiotic potential of Lactiplantibacillus plantarum AM2 in cognitive impairment.を日本語に訳したものです。タイトルをクリックして原文を読むことが出来ます。

前のページに戻る