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更新2021.01.27

 

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委託研究

高活性ケフィア菌による豆乳発酵食品作製の試み

日本獣医生命科学大学教授     

農学博士 藤澤倫彦    

1.はじめに

 大豆を熱水で抽出した液である豆乳は、オリゴ糖、イソフラボン、サポニン、タンパク質、レシチン、リノール酸、各種ビタミン類、 各種ミネラルなど、大豆由来の機能性成分・栄養成分を含んだ食品である。近年における健康志向の高まりに伴う健康食品ブームから大豆の栄養価と機能性が着目され、納豆や豆腐など大豆を原料とする食品に注目が集まっているが、このことは豆乳についても同様であり、その生産量は現在著しく増加している。一方、機能性を有し、且つ、大豆豆乳の異臭除去に有効(1)であることも知られている乳酸菌を用いて発酵させた豆乳発酵食品の製造の試みについてもいくつかの報告があるが、用いる乳酸菌の種類によって酸度が異なるようであり(2)、発酵が不十分な菌種、菌株も存在する。そこで今回、ヨーグルト作製用高活性ケフィア菌を用いて豆乳発酵食品の作製を試み、さらに種々の乳酸菌およびBifidobacterium (ビフィズス菌) による豆乳発酵試験を実施し、若干の知見を得たので紹介する。

2.試験方法

2-1.  高活性ケフィア菌による豆乳発酵食品の製造

2-1-1. 実験材料

 豆乳は市販の無調整豆乳(めいらく)を用い、また、スターターといては高活性ケフィア菌(製造元:ローゼル社; 発売元:中垣技術士事務所)を使用した。なお、本スターターには乳酸桿菌(Lactobacillus), 乳酸球菌(Lactococcusおよび Leuconostoc)ならびに酵母(Saccharomyces)が含まれている。

 

2-1-2. 発酵試験

 市販豆乳900 mLを洗浄、滅菌したガラス容器に移し、上記スターター1袋(1g)を加え、攪拌の後、25、30、および35℃の各温度で16および24時間培養した。培養後、pH,酸度、各種菌数の測定、外観の観察ならびに10名のボランティアによる賞味試験を実施した。なお、本実験は3回繰り返し、平均値を算出した。

 

2-2. 各種乳酸菌およびBifidobacterium (ビフィズス菌) による豆乳発酵試験

 当研究室所有の各種乳酸菌ならびにビフィズス菌を豆乳に添加し、35℃で24時間培養後、pHおよび生菌数を測定するとともに凝固の有無を観察した。

3.試験結果

3-1.  高活性ケフィア菌の豆乳における発育性

 豆乳を高活性ケフィア菌で培養後の菌数を表1に示した。25℃および35℃培養における各菌種・菌群の生菌数において低温でのLactobacillus菌数がやや低い傾向にあった以外、顕著な差異は認められなかった。 また、同じ温度で培養時間が異なった場合においては、短時間培養でのLactobacillus菌数がやや低い傾向にあった以外、顕著な差異は見られなかった。

3-2.  高活性ケフィア菌を用いて作製された発酵豆乳の性状および嗜好性

 今回の実験で検討したいずれの条件(温度、3-2.  高活性ケフィア菌を用いて作製された発酵豆乳の性状および嗜好性時間)でも高活性ケフィア菌は豆乳を凝固させることができた。表1に豆乳を高活性ケフィア菌で培養後のpHならびに 酸度を示した。培養温度が高くなるに従ってpHが低下し、同時に酸度が上昇する傾向にあった。24時間培養の発酵豆乳について賞味試験を実施した結果、10名中9名が25℃培養で作製された発酵豆乳の方が35℃でのそれと比較して酸味がマイルドで食べやすいと回答した。 一方、35℃で16時間培養の発酵豆乳は25℃で24時間培養のものと類似しておりマイルドで食べやすいと回答したボランティアが9名おり、また、8名のボランティアが25℃で16時間培養では発酵食品としては酸味が少なく物足りないと回答した(表2)。

3-3. 乳酸菌およびビフィズス菌による豆乳発酵試験

 乳酸菌およびビフィズス菌による豆乳発酵試験結果を表3に示した。

供試された全菌株において菌数が増加しており発育が認められた(105~108 cfu/1mL豆乳)が、このうち豆乳を凝固させたものはStreptococcus thermophilus A 株のみであった。

4.考察

 牛乳中に含まれる主な炭水化物は乳糖であり、ヨーグルトのスターターがこれを発酵して乳酸を産生し、牛乳中のタンパク質を凝固させてヨーグルトができるわけであるが、ヨーグルト様の豆乳発酵食品が作製できるか否かは使用するスターターに豆乳に含まれる糖質を資化する能力があるか否か次第ということになる。今回、使用した高活性ケフィア菌は豆乳に含まれる糖質を資化して酸を産生していることが確認されたことから、発酵豆乳の作製に極めて適していると考えられた。 一般に、ヨーグルトの製造では高酸度となる培養条件が望ましいが、発酵豆乳の場合、酸味が穏やかな方が食べやすいとの回答が多かったことから、極度に発酵の進まない、すなわち、酸度の高くない発酵豆乳が発酵の進んだそれと比べて一層食べやすいものと思われた。一方、少数ではあるが高温、または長時間培養の豆乳発酵食品を好むボランティアも存在したことから、実際に家庭で作製する場合には、家族の好みに合わせた条件(温度、時間など)で作製することをお勧めする。なお、高酸度の発酵豆乳の酸味を抑えるために果汁、フルーツジャムやフレーバーなどを添加するのもよいかもしれない。ところで、発酵食品の製造はなるべく短時間で実施することが雑菌の繁殖を抑えるためにも望ましいとされていることから、今後は短時間培養における酸度、pH、菌数の測定、外観の観察および賞味試験を実施するとともにグルコースなどの糖を副原料として補助的に添加し、程よい酸度で嗜好性の高い豆乳発酵食品の短時間製造を試みたいと考える。他方、各種乳酸菌およびビフィズス菌を用いての豆乳発酵試験において豆乳を凝固させたものは1株のみであったが、培養条件(温度、時間など)や豆乳中への糖の添加などを詳細に検討することで凝固する菌株が確認できるかもしれない。

5.おわりに

 大豆に含まれる糖質であるオリゴ糖は機能性食品・プレバイオティクスとして利用されており、大豆オリゴ糖を含んだ特定保健用食品も市販されている。大豆オリゴ糖の摂取により腸内環境の改善効果が報告されているが(3)、大豆発酵食品である納豆(4)および納豆を加えた味噌汁(納豆汁)(5)の摂取でも同様の結果が報告されている。これらのことは、大豆そのものならびにその発酵食品にも腸内環境を改善させる作用のあることを示すものであると同時に、豆乳を乳酸菌で発酵させた食品にも同様もしくはより一層の有用作用を有している可能性をも示唆するものである。今回の実験において、用いた多くの乳酸菌が豆乳を凝固できなかったのに対し、高活性ケフィア菌は豆乳を発酵して酸を産生し、豆乳を凝固させることができたことから、発酵豆乳の作製に適していると考えられた。今後は高活性ケフィア菌を用いて作製した発酵豆乳の摂取が腸内細菌叢 (有用細菌の代表であるビフィズス菌および有害細菌の代表であるウェルシュ菌や大腸菌の糞便内菌数)、腸内理化学性状 (老化や発ガンに関与するといわれているアンモニアや硫化物など腸内有害細菌の代謝産物濃度)、ならびにβ-グルクロニダーゼなど大腸ガンや乳ガンの発生と密接に関係するといわれている腸内細菌性発ガン関連酵素の腸内での活性におよぼす影響につて検討を加え、高活性ケフィア菌を用いて作製された豆乳発酵食品の摂取と健康の維持・増進との関連性を究明したいと考える。

6.参考文献

(1)  稲神馨. 乳酸菌の食品への利用. 発酵と工業. 1979. 37:122-132.

(2)  伊藤雅子、前田赳史、児島雅博、内藤茂三. 乳酸菌を用いた大豆乳の新規利用法の開発. -大豆乳における乳酸菌の生育-. 愛知県産業技術研究所研究報告.

2005. 4:138-141.

(3)   Hayakawa, K., Mizutani, J., Wada, K., Masai, T., Yoshihara, I., and Mitsuoka, T. Effects of soybean oligosaccharides on human feacal flora. Microbial Ecol. Health Dis..1990. 3:293-303.

(4)   Terada, A., Yamamoto, M., Yoshimura, E. Effect of the fermented soybean product “Natto”  on the composition and metabolic activity of the human fecal flora. Jpn. J. Food Microbiol. 1999. 16:221-230.

(5)   Fujisawa, T., Shinohara, K., Kishimoto, Y., Terada, A. Effect of miso soup containing Natto  on the composition and metabolic activity of the human faecal flora. Microbial Ecol. Health Dis. 12006.8:79-84.

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